どんな仕事、どんな業界でも売上というのはとても重要な指標です。売上向上＝業績向上ということで、「どうしたら売れるか？」を日々考え、そのためにマーケティングを意識していると思います。

「このアイデアは素晴らしい、この商品は消費者にとって価値のあるモノだ」

そう考えて商品化し、事業展開してもそれが全て受け入れられるとは限らずに、俗にいう「ダーウィンの海」に飲まれて消えていく商品も多々あります。

※「ダーウィンの海」：
市場投入できた商品やサービスが事業として成功するまでにぶつかる障壁を指すマーケティング用語。商品化できたとしても、市場競争力や消費者ニーズ適応力がないと生存競争から淘汰さるこのような状況がダーウィンの進化論と重なるため、ダーウィンの海と呼ばれる。

商品化まではそれこそ膨大な時間と労力をかけることになるのに、それが市場に受け入れられずに消えていくというのは非常に厳しい現実です。

多くはそうならないように足搔き、新機能や新バージョンの投入で延命を図るのですが、残念ながら基本設計の時点でニーズ適応力を欠いていた場合は延命の甲斐もなく消えていきます。

バルミューダフォン、事業撤退

「バルミューダ、スマートフォン事業撤退」というニュースが流れたのは2023年5月12日のことでした。

大手とは違う、キラリと光る家電を次々と市場に投入してきたバルミューダ。同社は2021年8月、唐突にスマホ事業への参入を発表します。そして同年11月に第1弾としてバルミューダフォンのお披露目となりました。

しかしお披露目されたバルミューダフォンには非常に厳しい目が向けられます。

バルミューダフォンは「魔の川」、「死の谷」を乗り越えましたが、ダーウィンの海は超えられなかったということでしょう。

※「魔の川」：
アイデアを具現化する研究段階での障壁のこと。良いアイデアだとしても、それを実際に製品化するには困難を伴う。

※「死の谷」：
製品化できても商品化、事業スタートとなるとは限らず、その段階における障壁のこと。多くは資金調達や労働力確保の問題。

バルミューダはデザイン性を重視した製品戦略を描き既存商品との差別化を試みましたが、現実は競争が激しいスマートフォン市場では消費者に支持されることはなく十分な成功を収められませんでした。消費者がスマートフォンに求めていることはデザイン性ではなく使い勝手やスペック、見易さにあったのですが、あえてそこを突かずに独自路線で差別化を目指してあえなく撃沈、という形です。

差別化の方向性

この事例はサービス業としても、そしてパチンコ業界としても大きな教訓を得られます。

どんなアイデアでもまず確認すべきは「市場の動向と消費者のニーズの理解」です。競争が厳しい業界でも他社と差別化できる独自の価値を提供できれば成功のチャンスは広がりますが、それは、消費者が求めているものや競争状況を正確に理解し、それに応じてサービスを調整、改善することが大前提です。

バルミューダの事例はこの部分を見誤っていました。「消費者の求めているもの」の定義を、です。

新たな挑戦にはリスクが伴いますが、それを避けて安全な水域に留まるだけでは成長の機会を逃すことになります。だからこそ動かないといけない、ということは正しい思考だと思います。

しかしバルミューダの事例から学べる重要な点は、新規投資や挑戦を行う際は、事前の深い市場調査と分析が必要ということです。それによりリスクを評価し、可能な限りリスクを抑制することが可能となります。

「差別化」は、他者より優れている部分の訴求がセットでなければいけません。このことを今一度頭において、自店の方向性や訴求ポイントを見直してください。

ABCコラムで「差別化」については何度も取り上げました。以下のコラムも参考にしてください。

・差別化と価格主導権の話（2021.10.29）
https://www.ab-c.jpn.com/11229

・間違いだらけのSWOT分析をしていないか？（2022.02.17）
https://www.ab-c.jpn.com/11562

・差別化の「意味」を間違えるな！（2023.01.11）
https://www.ab-c.jpn.com/12222

　
　
（了）